CESに見るAIの新しい試み
毎年のCES(国際家電見本市)は、各社がC向け製品をお披露目する最も重要な舞台です。今年最も話題をさらったのは、当然ながらエヌビディアのジェンスン・フアンCEOによる基調講演でした。フアン氏は現在のAI業界を代表する第一人者と言っていいでしょうし(おそらく)、彼に関する報道や分析はすでに山ほど出ているので、私がむしろ気になったのは、もっと小さくて面白い問いのほうです。たとえば、AIは他にどんな場面で使えるのか、といったことです。
AIの用途を細分化 商用市場が新たな可能性を模索
この1年の主な課題は、AIがますます深く社会に浸透していく中で、GPTや大手モデル企業がすでに明示している用途以外に、どんな新しい可能性があるのか誰もよくわからない、というものでした。そのためCESに出展する各社は皆、自社ならではのAI活用シーンをどう見つけるかを模索しています。もちろん現時点ではPC上での活用が主流ですが、今回のCESを見る限り、人々はその用途をさらに細かく分けていく試みを始めており、そうした事例を数多く目にすることができました。
CESでは過去数年、AIアシスタント機器も出展されてきましたが、この分野はあまり良い成果を出せていません。代表格であるHumane AI PinとRabbitは、すでに失敗と見なされています。主な理由は、大手モデル企業自身のツールがすでにパソコン上で非常に便利に使えるうえ、トップメーカーはしばらくごとにパソコンやスマートフォンのヒューマンインターフェースのロジックを更新してしまうからです。単独製品を作っても、大手が定期的に足元をすくいに来るわけですから、成功するはずがありません。
とはいえ、ここ数か月でAI用途の細分化が進んだ結果、すでに商用市場を確立しているとても興味深い事例が一つあります。いわゆる「手作りAIぬいぐるみ」です。今のGPTのようなモデルはすでに会話ができるので、入出力機能を備えた小型の電子機器(具体的には古いスマートフォン1台で十分)があれば、それをぬいぐるみのお腹の中に仕込み、モデルを少し手直しすればオフラインでも使えるようになります。この会話のやり取りによって、対話のループが成立し、癒やしや連れ添いのような効果を生み出せるのです。もしトム・ハンクスが持っていたバレーボールにこの機能が付いていたら、無人島でウィルソンと直接おしゃべりできたことでしょう。
実際、X(旧Twitter)やタオバオですでにこの種の小物・おもちゃを販売している人もいて、商売もそこそこうまくいっているようです。少し調べてみると、実際に金型を起こして本格的に製造しているものも少なくありません。SF映画に出てくる癒やし系ロボットに比べればまだかなり粗削りで、もはや別物と言ってもいいレベルですが、雑談や遊び相手としての癒やしロボットが広く普及する未来も、そう遠くはなさそうな気がします。
もう一つ、AIを活用したヒューマンインターフェースとして比較的完成度が高いと感じるのが、メガネです。グーグルグラス以来、スマートグラス市場は何年も続いており、昨年は大きな進展がありました。アップルのApple Vision Proはあまり成功したとは言えませんが、メタとレイバンが組んだメガネはかなりの成功を収めています。求められる機能を「録画できる」「簡単なAIのやり取りができる」程度に絞り込んだことで、この用途が実用に耐えることが証明されたわけです。
AIスマートグラスは最も成熟した活用事例になりそう
似たコンセプトで、今回のCESで面白かったメガネメーカーの一つがHallidayです。この製品は光を直接目に投影する方式で、緑色の光を目の中に映し出します。レンズに像を結ばせるのではなく、目そのものに像を結ばせる仕組みです。当然、使う人は少し不安に感じるでしょうし、実際に記者の報道を見ても、目を傷めないかという懸念の声が見られました。この方式のメリットは、メガネ自体は一般的なレンズを使えばよく、レンズを大きく作る必要もない点です。目に直接投影する仕組みのため、対応する周辺機器も小型化でき、特注フレームではなく一般的な軽量フレームが使えるのです。
このメガネによるリアルタイム字幕投影は、そのままリアルタイム翻訳に応用できると想像がつきます。リアルタイム字幕とリアルタイム音声翻訳は、実は現時点で最大級のAI活用シーンと言ってよく、この種のメガネ機器はすでに成熟した市場にそのまま参入できる位置にあります。そのため今年は、同様の製品が数多く登場することになりそうです。
CESで残りの面白い部分といえば、やはり「なぜAIを使う必要があるのか分からない」のにAIを使っている製品の存在です。多くの評論家はこうしたAI搭載製品を的外れだと酷評していますが、実は私はこの手の製品を見るのがかなり好きです。たとえばレシピをスキャンできるスマート調味料ボトル(この的外れ度は満点の10点をつけたいところです)、あるいはアメリカの家庭の裏庭に置くのにいかにも合いそうなスマート鳥用水盤(飛来する鳥の種類をAIが識別してくれます)。さらにゲーミングデバイスメーカーのRazerが発表した、対戦を分析してくれるeスポーツコーチAI「Copilot」もあります。これらはいずれも一応理にかなった用途ではあるものの、少し無理をして「うちにもAIが搭載されています」とアピールするために作られた製品、という印象も否めません。
全体として、AIにとって一番地味な発展こそが、実は一番重要なのだと私は思います。たとえば今回のCESで最大の出展分野だった自動車関連のAIは、大量のニュースを生み出しました。あるいはパナソニックがAnthropic(よく知られる大規模モデルClaudeの開発元)と組んでAIフィットネスコーチを開発したという、地味だけれど着実なニュースもありました。というのも、これらの大規模モデルをより多くの実用シーンに落とし込むには、家電の大手メーカーや、すでに実世界に大きな影響力を持つ様々な企業の力を借りて、私たちを静かにAIのある環境に慣れさせていく必要があるからです。
こうした本当の意味での実用化は、理にかなってはいるものの、あまり目を引くものではありません。それでも私は、CESで少し無理にAIを搭載したような機器を大量に見て回りました。まるでスパゲッティを壁に投げつけて何がくっつくか試すような感覚です。多少的外れではありますが、スパゲッティを壁に投げつけるという行為自体、それはそれで楽しいものですから。